【イベントレポート】サイバーセキュリティ領域で活躍する女性のLT大会「LCL-Tokyo 2023 Fall」を開催
2023年12月8日、サイバーセキュリティに関心のある女性たちによるイベント「LCL-Tokyo 2023 Fall」が、サイバーセキュリティクラウド(CSC)の社内セミナールームで開催されました。
イベントを主催した「LCL-Tokyo」は、サイバーセキュリティ分野で活躍する女性のためのグローバル・コミュニティ「LCL」の日本支部にあたります。LCL(Leading Cyber Ladies)とは、イスラエルのサイバーセキュリティ技術者ケレン・エラザリ氏を中心に設立され、トロント、ニューヨーク、ロンドンなどに拠点を持って活動している専門家コミュニティです。
今回開催されたイベントは、LCL-Tokyoとしては初の試みとなるライトニングトーク(LT)大会で、オンライン、オフラインあわせて6名の登壇者がそれぞれの興味関心についてプレゼンテーションしました。
小さな発表経験を重ねて、大きな舞台へ
最初に、LCL-Tokyoの設立者であり、CSCのアドバイザーも務めている、株式会社BLUE代表取締役の篠田佳奈さんから、本イベントの企画背景が語られました。
「もともと、女性はあまり前に出て発言をしたがらない傾向があるといわれています。インポスター症候群とも呼ばれますが、こうした状況を改善するためにLCLで提案されているのが、少人数のグループで喋る経験を積むことで自信をつけ、大きな会議などにも登壇していくというスキームです。私たちもライトニングトークを通じて、発表する場を増やしてみたいなと思っています。多様なバックグラウンドを持つ参加者がそれぞれの独特な視点を共有する場となっておりますので、ぜひ最後まで楽しんでください」(篠田さん)
ライトニングトークセッション
ここからは、登壇された順に登壇者と講演内容をご紹介していきます。
1人目 宇治川ひかるさん
最初の登壇者は、東京デザインテクノロジーセンター専門学校3年の宇治川ひかるさん。当日、飛び込み参加での登壇となりました。宇治川さんは、自身のパソコンを持ったのは専門学校に入学してからだそうですが、「SecHack365」の思索駆動コースに参加し、CODE BLUEの学生スタッフでもあります。
SecHack365でのつながりがきっかけとなりCTF(Capture The Flag)チームに参加し、月に1回ほどのペースで大会に出場しているそうです。さらに、学校内にLTサークルを立ち上げ、そのリーダーとして活動を牽引しています。こうした経験を通じて、宇治川さんは技術的スキルの向上はもちろん、リーダーシップとチームワークの重要性についても学んでいるようです。
2人目 石戸谷由梨さん
続いての登壇者は、お茶の水女子大学情報科学科3年の石戸谷由梨さん。講演タイトルは「ジェンダー×テクノロジーの可能性」です。石戸谷さんは、チームで開発したアプリ「あんしん夜道」が2023年度未踏IT人材発掘・育成事業や女性リーダー支援基金に採択されたり、来年3月に開催予定の女性&ノンバイナリー向けハッカソン「Dots to Code」の代表を務めていたりと、精力的に活躍されています。
石戸谷さんのLTは、テクノロジー分野のジェンダーギャップについて。日本は特にジェンダーギャップ指数が低く、理工系分野を卒業した女性比率はOECD諸国で最下位です。情報通信業で技術者として働いている女性は極めて少なく、そのため、セキュリティ対策などの観点でも女性の視点が取り入れられにくいという課題が生じています。こうしたジェンダー問題にどう対応していけばよいのか。会場参加者からも質問が飛び、活発な議論が交わされました。
3人目 稲垣響さん
続いて登壇したのは、慶應義塾大学環境情報学部2年の稲垣響さんです。講演タイトルは「1年間の軌跡」。2022年10月に大学の研究室に所属してからの1年間で、稲垣さんは自身が興味を持ったテーマを深く掘り下げ、その成果をみんなの前で発表する機会を得ました。また、プログラミングスキルを強化するための取り組みも行ってきたようです。初めのうちは主に先輩から薦められた書籍や論文を読んで勉強していましたが、2023年に入り、実践的な学習へのシフトを決意しました。そのため、より積極的に手を動かし、直接技術に触れることを自身の目標として設定したとのことです。
4泊5日で行われたIPA主催のセキュリティ・キャンプや、SecHack365の表現駆動コース、国際CTF大会の運営スタッフや「CODE BLUE学スタ」への参加などの経験を通して、セキュリティ知識にとどまらない多くのことを学び、技術への理解も深まったことを話していただきました。
4人目 竹本七海さん
続いての登壇者は、株式会社サイバーディフェンス研究所でインフラエンジニアとして働く竹本七海さんです。講演タイトルは「SecHack365の体験談を紹介する」。ここまでに登壇した宇治川さんや稲垣さんも参加されている「SecHack365」についてのLTです。
竹本さんがSecHack365に参加したのは2019年。当時は、北海道から沖縄まで日本全国を1年掛けて巡り、最後に東京で成果発表するプログラムだったそうです。竹本さんの参加していた思索駆動コースは、一つもしくは複数の社会問題をテーマに取り上げて対話を重ねながら考え抜いた上で開発を行うというプログラムとのこと。修了後は、アシスタントとして後輩参加者のサポートをすることができ、竹本さんも2022年度にアシスタントを担当しました。SecHack365に参加したことで、転職時に高く評価してもらえたりセキュリティが身近になったりしただけでなく、「好きなことに熱中するのに躊躇しなくなった」「自分のロールモデルとなるような年上の女性たちと仲良くなることができた」と話されていたのが印象的でした。
5人目 伊藤るるさん
続いては、慶応義塾大学総合政策学部3年で、Leading Cyber Ladies Youthの発起人でもある伊藤るるさんが登壇しました。伊藤さんの講演内容は、LCL Youthを立ち上げた背景にあった想いと、研究対象であるProbabilistic Computing(不確実性コンピューティング)についてです。
Probabilistic Computingは、データの不確実性を考慮に入れることで、より人間に近いアプローチでAIモデルを作成する手法とのこと。ChatGPTなどで利用されているニューラルネットワークの手法は、なぜAIがその答えを導いたのかわからなかったり、学習に膨大なコストが掛かったりという問題を抱えていますが、シンボリックプログラムの手法を採用することで、人間が理解できるアプローチが可能になるそうです。いまはニューラルネットワーク研究が盛んなため、日本国内では研究できる環境が少ないのだと話していただきました。
6人目 篠田佳奈さん
LT大会の最後は、篠田佳奈さんが登壇しました。情報セキュリティの国際会議「CODE BLUE」の発起人でもあり、LCL-Tokyoの代表も務める篠田さん。11月に開催された「CODE BLUE 2023」での注目セッションや、アジア版「セキュリティ・キャンプ」として立ち上げた「Global Cybersecurity Challenge (GCC)」と、EU政府が開催する若者向け国際CTF「International Cybersecurity Challenge(ICC)」についても紹介していただきました。
CSCは、サイバーセキュリティ分野における人材不足という社会課題に積極的に取り組んでおり、今回、篠田さんのような影響力のある方が、率先して推進していることへの感謝と、協力をしたいという想いから会場提供と運営をサポートしております。サイバーセキュリティ業界全体の発展に貢献するため、サイバーセキュリティにおける研修セッション、ワークショップ、ネットワーキングイベントなどの活動を、今後も積極的にサポートしていきます。